6月28日は、馬渕明子氏(日本女子大学 教授)による、講演会『クロード・モネと日本』を聴講しました。
氏のお話しの主旨は、モネら浮世絵の影響を受けたとされる印象派の画家たちは、日本美術が傑作で素晴らしいから全面的に真似しようとしたのでなく、彼らが新しいことをしようとしていたときに、ちょうど浮世絵の手法や構図が参考になったから巧みに取り入れたのだ、ということでした。
印象派は屋外で光や空気を描き、当時のアカデミーなサロンから非難されます。
しかし印象派が打ち破ったこれまでの西洋絵画の伝統は、それだけではありませんでした。
彼らはルネサンス以来の遠近法も壊していきます。
消失点の位置、そこに向かって空間を空けるのが伝統的な描き方ですが、モネたちは浮世絵で発見したこれまでにない斬新な構図から、消失点の位置を極端に上げたり下げたりし、あるいは消失点へ向かう視線を遮るように土手や、木々を描きます。
モネの革新的な手法も、現在のわたしたちの感覚からすれば、それは実際によく見る自然の光景であり、どこが斬新なのだろうと思うほどです。
例としてスライドで紹介されたのは、『トゥルーヴィルの海岸』(1881年)と『かささぎ』(1868~69年)でした。
参考になった浮世絵は、歌川広重の東海道五十三次之内『四日市(三重川)』と『蒲原』です。
確かにモネは広重から構図をうまく取り入れ、従来の遠近法の構図を否定してみせるのですが、空気遠近法で遠近感を残しているので、浮世絵のような平面的な印象はありません。
しかし当時のパリの人々にとっては、それが革新的だったのです。
講演の中で興味深かったのは、これまで西洋では雪景色を描くことがなかったそうで、描かれたとしてもそれは暦として時季を表すためだったのだそうです。
ん?
雪景色ってなかったかしらん。
さまざまな西洋画を思い浮かべてみたのですが、わたしは中世の時祷書とブリューゲルくらいしか思いつきません。
ありそうでない雪景色の絵。
ルネサンス期に遠近法が生み出されたのは、まるで本物のように描くためでしたが、長い年月の間にそれは形骸化し、いつしか逆に実際に見た印象のとおりに描くことを否定するようになっていたわけです。
《参考記事》
『クロード・モネの世界』展 (08/06/24)