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ニュートラルな気づき 


by honnowa
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連想から連想へ 1

みなさんはアンリ・ルソーの絵はお好きでしょうか。
わたしはわけもなく好きです。
子供のころ奇妙で怪しくて不思議な物語が大好きだったのですが、ルソーの絵を見ていると、そんな物語に熱中していたころの感覚を呼び起こしてくれるのです。
きょうはルソーの絵を介して連想が展開していった話です。

ブログの『芦生原生林の博物誌』を訪問しましたら、1月13日の記事に桂の大木の写真がUPされていました。
雪の積もった谷底に、葉のない木がすくっと立っている写真ですが、幹から伸びた枝の先に細かい枝がたくさん生えているので、あまり寂しい感じでなく、なかなかいい樹形だなと眺めておりましたら、ふとルソーがよく似た木を絵に描いていることに気づきました。
そしてそのことをコメントしましたら、管理人の池さんがある謂れを教えてくれました。
以下はその時の遣り取りです。

  『芦生原生林の博物誌』様より 『岩谷の大カツラ』  

   おはようございます。
  1枚目、真下から見ると面白いですね。
  天に向かって根っこが生えているように見えます。
  実物でなく、写真だから、こういう見え方をするのかもしれません。
  2枚目の樹形もいい感じです。
  ルソーの『カーニヴァルの夕べ』という絵に、ちょうどこんな木が描かれています。
  見比べると、そっくり!
  池さんに画像をお見せしたいのでURLです。
  フィラデルフィア美術館です。
  (http://www.philamuseum.org/collections/permanent/59593.html)


   >ほんのわさん
  根から出ている毛根は地中の養分と水分の吸収、枝から出ている葉は光合成のためで
  す。1本の木が天地対象の構造になっているということかも?

  『カーニヴァルの夕べ』の木を見ました。ほんとにそっくりですね!
  桂は英語で "Japanese Judas Tree" なのですが、"Judas Tree" はセイヨウズオ
  ウのことでキリストを裏切ったユダが首をつった木とされています。
  もしかすると、この絵の木は"Judas Tree"であって、画家の宗教的なメッセージが込め
  られているのかも?

ぜひリンク先から画像をみていただきたいのですが、そっくりでしょう。
でも形はそっくりなのに、醸しだすイメージがまるで違いますね。
写真の葉の落ちた冬の木は見通しがよくすっきりして清々しくさえあるのに、ルソーの絵は、静謐でありながらも何か奇妙なことが起こりそうな予感を孕んでいます。

ルソーはほとんどの絵に樹木を描いたようで、「森ないし樹木に対する、異常なまでの偏愛と親和が存在しているのであろう」 (『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14ルソー』 酒井忠康P5)と解説されるほどですが、その樹木を図像学(イコノグラフフィー)的な解釈で描いたとは思えません。
たまたまよく見ることのできる場所にそのような樹形の木が生えていてスケッチしたとか、自分の好きな写真や絵葉書、挿絵など参考にし、気に入った形の木を描いたのだろうと思うのです。
それでももしかしたら潜在意識に池さんが教えてくれたようなキリスト教圏特有のイメージがあったのかもしれません。
また池さんは『カーニヴァルの夕べ』に何かしら感じるものがあり、このような謂れを教えてくれたのだと思います。
そしてルソーの別の絵に対してですが、まさに「首吊り」を連想したアーティストがいます。
横尾忠則氏です。
パロディー作品も多く制作している氏ですが、ルソーの絵でもユニークなパロディー画を描いています。

元の絵はチューリッヒ美術館にある『森の中の散歩』です。
森の中をドレスの女性が散歩しています。
そこに描かれている木は直立ではなく、ゆがみ、葉をつけた枝は下向きに垂れ気味です。
色合い的に秋の森の様子で、ちょっと奇妙な印象を受けますが、静寂な感じもし、それ以上特別なことは何もないような絵にわたしには見えます。
ところが横尾氏、散歩の女性を木にぶら下げ、全体のグリーンの基調をグレーに変えちゃったんです。
そして横尾氏のパロディーを観て初めて、元の絵に首吊りにお誂えな先を切り落とした枝が、女性の真上に描かれていることに気づきます。
ルソーはなぜここにこんな枝を描いたのでしょう。
振り返る女性の姿も、何かから逃れようとしているかのように見えてきます。
一年前にちょうどこの横尾氏の絵を観ていたので、池さんの返信を読んだときに、すぐに思い出しました。 (2007/01/10の記事参照)
その展覧会の図録の解説です。 (『ルソーの見た夢、ルソーに見る夢』 P170)

  単に横尾のイマジネーションが作り出したというよりも、横尾がルソーの異常性を明らかに
  した、という方が正しいだろう。「素朴」な視線の中に潜む、こうした不穏な感情に気付いた
  横尾の鋭さに驚かずにはいられない

こちらもぜひ画像をお見せしたく検索しましたら、ちょうど同じ展覧会を観て、この絵について記事にしていらっしゃる方がおられました。
ちょうど元の絵も取り上げていらっしゃいました。
ルソーの元の絵は記事中からリンクを辿ってください。

  『ミレーが好き』様より 『横尾忠則「アンリ・ルソー《眠るジプシー》より」 』


もう少し書きたいことがあるのですが、長くなりましたので明日にします。
  
by honnowa | 2008-01-19 08:51 | 美術