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ニュートラルな気づき 


by honnowa
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『国宝源氏物語絵巻と平成復元模写』展 16 『早蕨』

順番では次は『橋姫』になりますが、さきに『早蕨』を取り上げます。

『早蕨』 (馬場弥生作)
  (図録『よみがえる源氏物語絵巻』よりP46)

    父八の宮、続いて姉の大君を失った宇治の中君は、悲しみのうちに春を迎えた。二月、
  中君は匂宮にむかえられ、二条院に移ることになる。上京を心待ちにしている女房たち
  は、縫物や、反物の整理など準備に余念がない。この世の無常を嘆く中君は、宇治にとど
  まる弁の尼と別れを惜しんで和歌を交わし涙する。
     人はみないそぎたつめる袖のうちにひとり藻塩をたるるあまかな (弁の尼)
     しほたるるあまの衣にことなれや浮きたる波にぬるるわが袖 (中君)

画像ですが、平成復元模写の方は見つかりませんでした。
下は原本の『源氏物語絵巻』です。
『国宝源氏物語絵巻と平成復元模写』展 16 『早蕨』 _c0100148_23164818.jpg











画面の一番上が中君です。
几帳や障子に隔てられていますし、お顔は出しているものの、口元を袂で隠しています。
右側の4人の女房たちが、縫物をしたり、反物の整理をして、いそいそと上京の支度をしています。
一方左側の老女が弁の尼で、薫に出生の秘密を教えるなど、宇治十帖のキーパーソンです。
原本ではわからないのですが、復元模写では、髪がふっつりと背中で切ってあり、青い衣装に袈裟を掛け、右手にはお数珠を持っています。
泣き顔といい、衣装といい、右側の女房たちとまったく対照的です。
弁の尼はこのあと『東屋ニ』にも登場しますが、かなり装いが異なります。
彼女は大君亡き後この巻で出家しましたが、尼姿にもいろいろあるのでしょうか。
なお、中君の方は喪が明けたので通常の衣装です。

中君の右側の障子ですが、絵が描かれているのがおわかりでしょうか。
原本ですとわかりづらいのですが、薄や桔梗、萩、紅葉した草木が描かれています。
研究者の論文に、このことが取り上げられていました。
なぜなら巻名『早蕨』のとおり、この巻の季節は春なのです。
他の絵にも障子が描かれていますが、みな似たような山水画で、草花だけがこのように大きく描かれたものはありません。
そうすると研究者同様、わたしも、この絵巻の制作者の意図を感じるのです。


《参考文献》
『「源氏物語絵巻」の情景選択に関する一考察 ──早蕨・宿木・東屋段をめぐって──』
  (稲本万里子 『源氏物語の鑑賞と基礎知識』 №41 宿木(前半) 至文堂 平成17年)
by honnowa | 2008-01-06 07:18 | 美術