井上靖 『花壇』読了
2006年 12月 19日
著 者 井上靖
発行所 角川書店
発行日 昭和51年10月30日初版発行
昭和51年11月30日再版発行
種 類 小説
内 容 第二の人生を踏み出すために、自分や家族、交友関係を見つめなおす主人公
動 機 『玉碗記』が気に入り、井上靖をもっと読みたいと思って
私の分類 楽しみ
主人公の出した結論にあれれ?と思いつつも、読後が気持ちの良い作品でした。
三つの章以外は会話や対話で話が進行するのですが、そのやりとりが楽しくそのまま質の良いホームドラマの脚本になりそうです。
井上靖を読むのは三作目ですが、いい意味で裏切られました。
本当に面白い作家だと思います。
さて作中、数箇所に「時代」という言葉が出てきます。
不況や世の中の変化は時代というものだ、といった意味合いで使われてます。
作品のテーマは普遍的ですが、主人公の出した結論にこそわたしは時代を感じます。
現在、または他の時代ならば違う結論になったでしょう。
主人公の対極として思い浮かぶのは、リンボウ先生こと林望と伊能忠敬です。
読書中ずっと気になることがありました。
なぜタイトルが『花壇』なのか。
作中に花壇はまったく出てきません。
草木の描写はありますが、話の本筋に深い意味を与えているわけでもありません。
いったい何を象徴しているのか。
思うにこの花壇は花盛りの花壇でなく雑草が伸び放題で、他人が人をどう誤解しているのか、自分自身との認識のズレみたいなものを表わしているようでもあり、または雑草を抜き耕してあるが何の種を蒔くか決めかねている状態が、主人公の心を表わしているともいえます。
ちょっと深読みかな。
まだ三作目で、作家自身を捉え切れていないから。
案外流行のキャッチコピーのように、なんとなくインスピレーションで付けられていたりして。
最後に気に入った一文を挙げておきます。
長いので引用しませんが、P136、137に幼く美しい者に愛情を傾けずにはいられない主人公の心情が綴られています。
なぜ幼い者は美しいのか、一つの美学です。
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